2021年6月~HACCP(ハサップ)義務化-導入が必要な業種は?必要な手続きとは?
食品・原材料の国際的な流通増加により豊かな食生活が実現する一方、有害な微生物や化学物質などによるトラブルへのリスクが増大しました。そうしたトラブルを回避し、食の安全性を確保するために生まれたのが国際的な衛生管理の手法であるHACCP(ハサップ)です。
日本では2021年6月から導入の完全義務化がスタートしてるHACCPとは、どのような管理手法なのでしょうか。今回はHACCPの概要と導入に向けた取り組みについてご紹介します。
目次
1.HACCP(ハサップ)とは
2.HACCP(ハサップ)導入が必要な業種とは?
3.HACCPに基づく衛生管理
4.HACCPの考え方を取り入れた衛生管理
5.HACCP対象外の事業者
6.ハサップ導入のメリットとは?
7.ハサップ未導入のデメリット・罰則とは?
8.ハサップ導入の為の7原則12手順
9.ハサップ導入について専門家の支援を受けるメリット
10.まとめ
1.HACCP(ハサップ)とは
HACCPとは「Hazard(危害要因)」「Analysis(分析)」「Critical(重要)」「Control(管理)」「Point(点)」の頭文字を取った略称で、食品を製造する際の管理手法のこと。日本語では「危険要因分析重要管理点」と呼ばれており、日本のみならず全世界的に導入が進められています。
HACCPは、元々宇宙食の安全を確保するためにアメリカで誕生しました。従来の食品衛生管理方法は、最終製品が安全基準に合致しているかを検査するものが多く採用されていました。しかし、食品の原材料や加工品の国際的な流通が進む中、さらなる食品への安全性確保が求めらた結果、製品出荷までの各工程を関するHACCPの導入が進められています。
そこで日本では2020年6月に施行されたに改正食品衛生法により、HACCPの導入をスタート。2021年6月よりHACCPの導入が完全義務化されており、該当するすべての食品に関する事業者が導入する必要があります。
2.HACCP(ハサップ)導入が必要な業種とは?
HACCPは「食品の製造・加工、調理、販売、飲食店などの食品を扱うすべての事業者」が導入の対象となっています。具体的に対象となる事業者は、以下のように多岐に渡ります。
- 飲食店
- 食品製造
- 食品加工
- 旅館/ホテル
- 他
一方で、HACCPの厳密な導入には高いコストと手間がかかるため、個人経営の飲食店のような小規模事業者は、導入が難しい側面があります。
そこで厚生労働省は、HACCPの導入について「HACCPに基づく衛生管理」「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」という2つの基準を設け、HACCPの導入を促進しています。
3.HACCPに基づく衛生管理
HACCPに基づく衛生管理は、後述のHACCP7原則に基づき、食品等の事業者が自ら作成した衛生管理計画に基づいた管理を行う基準です。
以下の対象事業者が、HACCPに基づく衛生管理の適用を求められています。
- 大規模事業者
- と畜場
- 食鳥処理場
4.HACCPの考え方を取り入れた衛生管理
HACCPの考え方を取り入れた衛生管理は、扱う食品ごとの業界団体が作成する手引書をもとに、HACCPが導入される意図に基づいた衛生管理を行う基準です。HACCPに基づく衛生管理に比べ対応内容が簡略化されており、小規模事業者でも導入しやすいよう配慮された内容とされています。
以下の小規模な営業者等に該当する対象者が、HACCPの考えを取り入れた衛生管理の適用を求められます。
- 食品を製造・加工する施設に隣接した店舗を使用する小売販売業者
- 飲食店、喫茶店営業者
- 包装容器に包まれた食品を貯蔵・運搬・販売する業者
- 食品を容器包装で小売販売する業者
- 食品を製造・加工・貯蔵・販売・処理する営業者のうち、食品等の取扱に従事する人数が50人未満である事業場
5.HACCP対象外の事業者
HACCPは食品に関する事業者を広く対象とした制度ですが、すべての事業者が対象となるわけではありません。以下のような食品を直接販売しない業種はHACCPの対象外となり、導入の義務はありません。
- 農業及び水産業における採取業
- 食品または添加物の輸入業
- 食品または添加物の貯蔵または運搬のみをする営業(※冷凍・冷蔵倉庫業は除く)
- 器具・容器・包装の輸入または販売業
- 1回の提供食数が20食前後未満の集団給食施設
なお、これらの事業者はHACCPの導入義務はなくとも、食品等事業者としての一般的な衛生管理を行う必要はあります。
6.ハサップ導入のメリットとは?
HACCPの導入は簡単ではありませんが、導入により企業は大きなメリットを得られます。HACCPによる管理は、企業に次のような影響を与えることが期待できるため、積極的な導入が求められます。
食品事故発生リスクが下げる
HACCPは原材料を受け入れる時点から細かい監視と記録を続ける制度です。従来の抜き取りチェックによる検査をくぐり抜けてしまうようなインシデントも、HACCPなら未然に防ぐことが可能。食品を扱う業種において最も恐れられる事故が発生するリスクを大きく下げられます。
企業価値が高まる
HACCPによる工程の監視は、衛生面だけでなく品質の安定にも大きく影響します。商品の品質の高さやトラブル率の低さが評価されるようになれば、良質な製品を安定して供給できる企業として高い評価を得られるでしょう。
取引先や販路の拡大につながる
HACCPの導入は、食品衛生に対する意識の高さを表す側面を持ちます。社内の工程の品質が高まるだけでなく、安全に取り組んでいる姿勢の外部アピールにも繋がるため、新たな取引先や販路の拡大に繋がる信用を得られるでしょう。
7.ハサップ未導入のデメリット・罰則とは?
HACCPは、前述の通り食品衛生法により、2021年6月より導入が義務化されています。法律で定められている以上、導入しない場合の罰則が設けられているかは気になるところです。また導入を見送ることにより、なんらかのデメリットが発生する恐れもあります。
HACCPを導入しない場合のデメリットおよび罰則は、どのように考えられているのでしょうか。
法律違反による罰則を受ける可能性
HACCPは食品衛生法により義務化されていますが、HACCP違反に対して直接与えられる罰則は規定されていません。しかしHACCPに違反したことで重大な事故が発生し、食品衛生法違反となった場合、食品衛生法に基づき以下のような罰則が与えられます。
食品衛生法第81条
3年以下の懲役または300万円以下(法人は1億円以下)の罰金
また、都道府県などの地方自治体は、食品衛生法の定めにより、独自に条例を作り、罰則を設ける権限が与えられています。もし地方自治体がHACCPの違反に対して条例を設けているなら、地方自治法に基づく以下の罰則が与えられる場合があります。
地方自治法第14条
2年以下の懲役または100万円以下の罰金
すべての地方自治体が条例を設けているわけではなく、またHACCP違反がただちに大きな問題になるとは限りません。しかし万が一食品衛生上の事故が発生した場合には大きな損害に繋がりますので、事業者は十分に注意しておく必要があるでしょう。
営業許可に対して影響が出る恐れがある
食品衛生法においては、違反に対する営業許可取り消しなどの行政処分は、都道府県知事の判断により行われるものとされています。
もし事業者がHACCPに違反している場合、または衛生管理計画に不備がある場合には、改善のための行政指導が行われるのが一般的です。
この行政指導のうちに改善できれば問題はありませんが、事業者が行政指導に従わず、HACCPに違反している状態が続くようなら問題は拡大。営業許可の取り消しや営業の禁停止といった厳しい行政処分のほか、前述にある都道府県からの罰則が下される恐れがあります。
会社の信頼度が下がり顧客を失う可能性
HACCPは食品衛生の向上を目指すために導入されたものであり、業界を挙げて遵守すべきものです。いわば業界の共通ルールともいえるHACCPを導入しない姿勢は、同業者から信頼を失うことにつながり、顧客を抱えるリスクを生んでしまいます。
また、HACCPに沿った衛生管理を行っていない取引先から食材等を仕入れても、取引そのものが食品衛生法違反となるわけではありません。しかしHACCPを導入しない取引先と付き合いそのものが、自社が業界から信頼を失うきっかけにもなりかねません。
すなわちHACCPを導入していない企業だけが信頼を失うに留まらず、取引先までも白い目で見られる可能性が生まれるのです。
8.ハサップ導入の為の7原則12手順
HACCPに基づく衛生管理を導入するには、コーデックス(Codex・国際食品規格)委員会によって策定された「7原則12手順」に従った構築を行う必要があります。12の手順のうち、手順6~12は原則1~7に該当するHACCPにおける中核です。
また手順1~5は原則には含まれませんが、原則1~7を実現するための前準備として、重要な役割をもっています。
手順1 | HACCPのチーム編成 | 製品製造に必要な情報を妻得るため、組織内でHACCPを担当するチームを編成します。社内にHACCPに関する専門知識を持つ人間がいないなら、外部の専門家や資料を頼りましょう。 |
手順2 | 製品説明書の作成 | チーム主導で製品に関する説明書を作成します。製品のレシピや原材料、販売方法など、製品に関する情報を網羅する必要があります。 書式は特に定められていません。 |
手順3 | 意図する用途及び対象となる消費者の確認 | 製品がどんな消費者にどのような手段で食べられるかを確認します。 書式は特に定められていませんが、製品説明書の中に盛り込んでおくとよいでしょう。 |
手順4 | 製造工程一覧図の作成 | 原材料の受け入れから製品の製造、出荷までの流れを工程ごとにまとめます。 |
手順5 | 製造工程一覧図の現場確認 | 作成された製造工程図を実際の現場に照らし合せて確認します。現場のオペレーションに合わないようなら、必要に応じが製造工程図の修正が必要です。 |
手順6 【原則1】 | 危害要因分析の実施 | 製造工程ごとに潜んでいる危害要因(ハザード)を探し、列挙された危害要因に対して管理方法を考えます。 |
手順7 【原則2】 | 重要管理点(CCP)の決定 | 危害要因の分析結果に応じ、危害要因を除去・低減する重要な工程(重要管理点)を決定します。 |
手順8 【原則3】 | 管理基準(CL)の設定 | 危害要因を管理するための基準を設定します。この基準は温度や時間など、科学的な根拠に基づき定量的に定められます。 |
手順9 【原則4】 | モニタリング方法の設定 | 重要管理点が管理基準に従って正しく管理されていることを確認する方法を設定します。手順8で定められた定量的な基準を正しく測定できる方法でなければなりません。 |
手順10 【原則5】 | 改善措置の設定 | モニタリングにより重要管理点が設定されたとおりに行われていないことが判明した場合の問題解決方法を定めます。 |
手順11 【原則6】 | 検証方法の設定 | 一連の工程がプラン通りに管理されているかを検証する方法を定めます。 |
手順12 【原則7】 | 策定した内容の記録・保持 | 一連の流れで策定した内容を記録し、保持します。この記録がHACCPに基づく衛生管理を行った証拠となるため、万が一のトラブル発生時に原因を解明する手がかりとなります。 |
9.ハサップ導入について専門家の支援を受けるメリット
HACCPは従来の食品衛生基準と大きく異なるため、導入に苦労する事業者も多いようです。もし自社だけでHACCPの導入が難しい、対策チームの構築ができないようなら、ぜひ専門家の支援を受けましょう。
専門家によるHACCPの導入には、次のようなメリットがあります。
ポイントを抑えた適切な計画策定が可能
多くの事業者にとって、初めてのHACCP導入は非常に混乱するものです。抑えなければならないポイントを見逃し、計画の策定を何度もやり直すハメになることも少なくありません。
外部の専門家は、豊富なHACCP導入の経験から、適切な計画策定を実施。短期間で漏れがない計画を組み上げてくれるでしょう。
保健所との調整を任せる事が出来る
2021年6月以降、保健所による営業許可更新の監査の際、HACCPの導入・運用がチェックされるようになります。保健所によるチェックに対し、どう対応していいか分からない事業者も多いのではないでしょうか。
専門家によるHACCPの策定が行われているなら、保健所との調整も専門家に任せることができます。保健所がチェックする対象であるHACCPの記録もしっかり作ってくれますので、不要な指導を受けるリスクは大きく減らせるでしょう。
客観的に見た評価/対策が可能
HACCPの策定には、客観的な評価に基づく危害要因分析や管理基準の設定が求められます。しかし初めてHACCPに取り組む企業では、適切な評価を行うのはなかなか難しく、またトラブルに対する対策も十分に用意できないかもしれません。
その点、専門家によるHACCPの策定は、あらゆる事例を根拠とした客観的な評価と、それに対する対策の用意が期待できます。自社の工程に対する私情も入らないため、安心して保健所に提出できるHACCPの記録を用意してくれるでしょう。
定着をはかる為の社内研修会を実施してもらえる
HACCPはルールを策定するだけでなく、事業全体での運用が必要です。そのためには管理するチームだけでなく、現場のスタッフも幅広くHACCPに対する知識を身につけ、意識をし続けることが求められます。
社内や店舗内に広くHACCPの知識を広めるには、専門家による研修会がオススメです。研修のための準備に手間がかからない上、対象者のレベルに合わせた適切な研修が行われるため、必要な知識が短期間で社内に定着する効果が期待できます。
10.まとめ
HACCPは、2021年6月から正式に義務化されている食品衛生管理の制度です。大企業から個人の飲食店まで、事業の規模に関わらずすべての食品関連の事業者が導入すべきもの。もしまだHACCPの導入を行えていないなら、早めの対応が必要でしょう。
HACCPは事業規模や業種によって、策定する内容が大きく異なります。もし自社での導入が困難と思われるようなら、ぜひHACCPの専門家である行政書士までご相談ください。